展覧会

特集展「充満する海のことば」

2022年08月10日〜2023年08月06日
会場
山中湖文学の森 徳冨蘇峰館・三島由紀夫文学館  
観覧料
●一般 ・個人500円 ・団体450円 ・障がい者250円
●大学生・高校生 ・一般300円 ・団体250円 ・障がい者150円
●中学生・小学生 ・一般100円 ・団体50円 ・障がい者50円
※高校生以上の学生の方は学生証をご提示ください。学生証のご提示がない場合、一般料金となります。
休館日
月曜日・火曜日(祝祭日の場合はその翌日)12月29日~1月3日資料点検日(不定期)※ゴールデンウィーク期間(4月28日~5月6日)は月・火曜日も開館。
リンク

企画意図

 2022年の新しい特集展示は「充満する海のことば」です。
 三島由紀夫にとって、「海」は特別な場所であるとともに特別な表象でした。「岬にての物語」「真夏の死」「潮騒」「海と夕焼」「午後の曳航」など、海を印象深く描いた作品はすぐに思い浮かべることができます。あるいは、大作「豊饒の海」―作品名に「海」が入っていますが、これは月面の乾いた海を指しています―の第4巻「天人五衰」が、駿河湾の海の長い描写から始まるのを思い出す人がいるかもしれません。
 そのほかにも、「花ざかりの森」「仮面の告白」「アポロの杯」「燈台」「金閣寺」「獣の戯れ」「剣」「春の雪」「奔馬」「暁の寺」などの代表作にも、海はさまざまな意味を籠めて描かれています。

 三島由紀夫は「海」にただならぬ意味を見出していました。それはこの日常の桎梏からの解放、未見の自然、怖れ、開放された心身、死、おおらかさ、ロマン的心情、蠱惑(こわく)、奇跡、不思議、禁止、マッチョな力強さ、不吉な凶兆、永遠、憧れなどです。それを文学作品に取り入れることで、作品の中心となる想念を表現し、三島自身の内にある得体の知れない情念を表現しました。「海」は三島にとって、そういう不可解な力を託す現象であり物象でした。
 ありていに言って、三島作品における「海」は、山とも川とも草原とも街とも異なる、単なる地形や場所を示すことばではありません。道路、ビル街、駅、ホテル、病院、レストラン、酒場、学校などの場所とも次元を異にしています。

 そういう観念的で詩的な「海」を、文学展示で表そうとしたのが今回の特集展示です。それは、文学展ではほとんどなされたことのない実験的な展示でもあります。なぜなら、この展示は「海」ということばを展示するというものだからです。文学展示が原稿や初出雑誌、初刊単行本などのほか映画化などの二次創作された資料といった、「物としての文学」「文学の入れ物」「文学の痕跡」を示すのに対し、この展示は文学そのものであることばを観覧者に感じてもらおうとする試みだからです。
 しかしこの試みは、文学展における本道だと考えられます。切り取られたことばであれ、濃密な意味の文学言語を直接体感してもらう試みだからです。
(文責:館長 佐藤秀明)

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